質乃蔵(しちのくら)の児玉です。
金属は加工することで、さまざまな分野で活用できるようになります。ただし、金を加工するには「王水」という液体が不可欠です。ここでは、金属の加工において広く用いられている王水について解説します。
目次
王水とは、現代においては主に金属加工で用いられている液体です。濃塩酸と濃硝酸を3:1(体積比)で混ぜたもので、一部の金属(銀製品)を除いてほぼすべての金属を溶かすという性質を持っています。特に金やプラチナは、王水でしか溶かすことができません。
王水の発見は西暦800年代にまでさかのぼります。王水を発見したのはアラブのムスリム科学者だといわれています。この歴史的発見の噂は瞬く間にヨーロッパにまで伝わり、さまざまな錬金術の考案へとつながりました。
当時多くの人たちが考案した錬金術は、化学の発展に直結します。このことからも、王水の発見は科学の歴史のスタート地点に位置する重大な出来事だったといえるのです。
王水には、ほとんどすべての金属を溶かすという性質がありますが、これは王水が極めて強い酸性の液体だからです。
ほとんどの金属は、酸性の液体によって溶けるという性質を持っており、レモンに含まれるクエン酸や食用の酢に含まれる酢酸などでも金属を溶かすことができます。極めて強い酸性の液体である王水なら、ほとんどすべての金属を溶かすことができるのです。
しかしながら、王水にも溶かすことのできない金属は実際のところ存在します。その代表的なものが銀です。銀を王水のなかに入れると、その表面には塩化銀の膜が生成されます。塩化銀の膜には、銀そのものの酸化を防ぐ働きがあるため、王水でも溶かすことはできないのです。
また、イリジウムやタンタルといった金属も王水では溶かすことができません。これらの金属にはそもそも耐酸性が非常に強いという性質があり、酸性度の非常に高い王水でも溶かすことはできません。
このように一部例外はあるものの、王水はほとんどすべての金属を溶かすことができ、そのなかには、ほかの液体では溶かすのが難しい金やプラチナなども含まれます。なお、王水はプラスチックや樹脂などの素材を溶かすことはできません。
まとめると、王水には「溶かせるもの」と「溶かせないもの」が存在するということです。
ほとんどの金属を溶かしてしまう王水ですが、人間の体まで溶かしてしまうわけではありません。人体のほとんどは水によって構成されており、水によって王水の強い酸性による影響は継続しないと考えられています。
ただし、酸性度の高い物質は人体にも悪影響があり、安易に口にするのは大変危険です。王水は酸性度が極めて高い液体であることから、少量でも飲んでしまうと人体に危険が及ぶ可能性は高いといわざるをえません。
人が王水を飲んでしまうことで発生する被害としては、強い酸が水に溶ける際に生じる高熱、塩素や窒素酸化物の発生などが考えられます。これらは人体に極めて悪い影響を与える症状です。体そのものを簡単に溶かしてしまうわけではないとはいえ、王水は人体に対して有害な液体だといえるでしょう。
なお、王水は非常に強い酸性の液体であることから刺激が極めて強く、そもそも人間が口にしても飲み込むことは大変困難です。
現代における王水の代表的な活用方法のひとつに、工業分野における貴金属の分離・回収が挙げられます。
携帯電話やパソコンといった電子機器などには基盤が組み込まれていますが、基盤には金やプラチナといった貴金属が使用されています。しかし、これらの電子機器の多くは基盤ごと廃棄されていました。
このような廃棄された電子機器などから貴金属だけを回収する方法が検討されています。方法のひとつとして特に注目を集めているのが王水を使用した分離・回収法です。
王水を使用した方法では、プラスチックや樹脂などは溶かさずに、基盤に付着した微量の金属だけを溶かします。溶かされた液体は還元剤などを投入することで分離され、そのなかから金だけを抽出することが可能となるのです。
以上のことから、金山から金を採掘するよりも都市鉱山といわれる携帯電話やパソコンから回収するほうがメリットとがあると思われますが、問題もあります。王水を使って貴金属を分別するには、コストがかかってしまい採算が合わないということです。
採算が合うようにリサイクルするためにも、今後の技術向上だけが今後の課題となりそうです。
世界中で金の産出量が減少傾向にあることから、廃棄された電子機器から王水を用いて金などを回収する方法が注目されています。今後も金製品を使うためには、消費者も金のリサイクルに協力することが大切です。
地球上にある希少な資源回収とリサイクルについて考えないといけない時期にきていますね。
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